訪問介護の記録アプリを選ぶときに最初に押さえるべきなのは、機能の多さではなく「制度上、記録に何が求められているか」です。運営基準が求めるのは、サービスの提供日・内容などを記録し、完結の日から2年間保存し、求めに応じて開示できること。令和3年度の改定からは、この記録を電磁的記録で作成・保存することが原則認められています。つまり、紙をなくすこと自体に制度上の壁はなく、問題は「現場が毎日使い続けられるか」「サ責や管理者がその記録を活かせるか」に尽きます。
この記事では、記録に関する公式ルールを整理したうえで、紙・請求ソフト付属の記録機能・専用アプリの3つを比較し、事業所の状況に合わせた選定チェックリストをまとめました。
制度が記録に求めていること
記録すべき内容と保存期間
運営基準(指定居宅サービス等基準)は、訪問介護を提供した際に「提供日及び内容、(中略)その他必要な事項を、利用者の居宅サービス計画を記載した書面又はこれに準ずる書面に記載しなければならない」(第19条)と定めています。さらに第39条で、訪問介護計画、提供した具体的なサービスの内容等の記録、苦情や事故の記録などを整備し、「その完結の日から二年間保存しなければならない」としています。
| 記録の種類(第39条) | 訪問介護の現場での実務 |
|---|---|
| 訪問介護計画 | サ責が作成し、利用者に説明・交付 |
| 提供した具体的なサービスの内容等の記録 | いわゆる実施記録・サービス提供記録 |
| 身体的拘束等の態様・時間・理由の記録 | 該当する場合のみ |
| 市町村への通知に係る記録 | 不正受給の疑いなどがあった場合 |
| 苦情の内容等の記録 | 苦情受付簿など |
| 事故の状況及び事故に際して採った処置の記録 | 事故報告書、ヒヤリハット |
「完結の日」は契約終了日など利用者ごとに異なるため、紙で管理すると「いつまで保管するか」が曖昧になりがちです。多くの自治体は条例で保存期間を5年に延長しているので、所轄の基準を確認しておきましょう。
電磁的記録は原則OK、署名・押印も不要にできる
令和3年度介護報酬改定では、全サービス共通で次の見直しが行われました。
これにより、実施記録をアプリで作成してクラウドに保存すること、利用者への確認をハンコの代わりにアプリ上の確認で済ませることが、制度上明確に認められました。運営指導で紙のファイルを求められることはなく、画面での確認や必要箇所の印刷で対応できます。
開示請求への対応
記録は事業所のものではなく、利用者本人の個人情報でもあります。厚生労働省と個人情報保護委員会の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」は、本人からの開示請求への対応、安全管理措置、委託先(クラウド事業者を含む)の監督を求めています。アプリを選ぶときは、記録を利用者・期間で絞って出力できること、アクセス権限を職員ごとに設定できることが、このガイダンスへの対応につながります。
記録を書く時間は労働時間
見落とされがちですが、厚労省の通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」は、業務報告書等を作成する時間について「使用者の指揮監督に基づき、事業場や利用者宅等において作成している場合には、労働時間に該当する」としています。記録に時間がかかる仕組みは、そのまま人件費と残業に跳ね返ります。記録アプリの導入効果を測るときは「1件あたりの記録時間」を導入前後で比べるのが分かりやすい指標です。
紙・請求ソフト・専用アプリの違い
| 観点 | 紙(複写式の記録用紙) | 請求ソフト付属の記録機能 | 記録専用アプリ |
|---|---|---|---|
| 記録のタイミング | サービス後にその場で手書き | 事業所のPCでまとめて入力することが多い | 訪問先でスマホから入力 |
| サ責への共有 | 月末に回収して確認 | 入力後に画面で確認 | 記録した瞬間に共有、重要な記録に気付ける |
| 保存・検索 | ファイル保管、探すのに時間がかかる | ソフト内で検索可能 | 利用者・期間・キーワードで検索、必要時に出力 |
| 請求との連携 | 実績を転記 | 請求と一体 | 実績データを請求ソフトへ連携 |
| 現場スタッフの負担 | 書く時間と提出の手間 | PC入力のための出社 | 入力は短いが、端末とアプリに慣れる必要 |
| 開示・運営指導 | ファイルから探す | 画面・印刷で対応 | 画面・PDFで即時対応 |
紙のいちばんの問題は、記録が事業所に集まるまでサ責が内容を知れないことと、回収・整理のために社員が事業所に縛られることです。テレワークの記事でも触れたとおり、記録の電子化は直行直帰の前提になります。
請求ソフト付属の記録機能は、請求に必要な実績(時間・サービス内容)を残すことに最適化されています。現場の気付きやバイタル、次回への申し送りまで書ける設計になっているか、スマホからの入力が現実的か、という点は製品ごとに大きく差があります。
記録専用アプリの強みは、現場スタッフが毎日使うものとして設計されていることです。反面、請求ソフトとの連携方法(CSV連携か、API連携か、手作業か)を導入前に必ず確認してください。
比較のチェックリスト
現場スタッフ向け
- 自分の予定と担当利用者の情報だけが見える、迷わない画面か
- 過去の記録を引用したり、定型文を選んだりして、文字入力を減らせるか
- 音声入力で記録を下書きできるか(移動中や訪問直後に使えるか)
- オフラインや電波の弱い場所でも入力が消えないか
- 登録ヘルパーの個人スマホでも安全に使えるか(アクセス権限、端末紛失時の対応)
サ責・管理者向け
- 記録がリアルタイムに届き、重要な記録(体調変化、ヒヤリハット)に気付ける仕組みがあるか
- 指示(気を付けてほしいこと)を記録と同じ場所で現場に伝えられるか
- 記録から訪問介護計画のモニタリングや支援経過につなげられるか
- 利用者・期間で絞ってPDFや印刷で出力できるか(開示請求・運営指導)
- 職員ごとのアクセス権限、退職時のアカウント停止ができるか
経営者向け
- シフト・勤怠・給与など、記録の周辺業務と同じデータでつながるか
- 請求ソフトとの連携方法と、二重入力が残る範囲
- 初期費用・月額に加えて、端末代と通信費の見込み
- 導入研修と、最初の数か月のサポート体制
- データの保存場所、バックアップ、暗号化などの安全管理措置
このうち事業所によって答えが最も分かれるのは「記録の周辺業務とつながるか」です。記録だけを電子化しても、シフトは紙、勤怠はタイムカード、給与は手計算のままでは、サ責と管理者の負担はほとんど減りません。
Colibriの記録機能
Colibriは、訪問介護の実施記録をシフト・勤怠・帳票・給与と同じアプリで扱えるように作られています。ヘルパーはスマホで自分のシフトを開き、訪問先でそのまま実施記録を入力します。話すだけで記録の下書きができる音声入力に対応しているので、文字入力が苦手な方でも短時間で記録が終わります。
記録はクラウドに保存され、サ責は記録された瞬間に内容を確認できます。指示や申し送りは記録と同じ画面で共有され、利用者・期間を絞ったPDF出力にも対応しているため、開示請求や運営指導の準備は数分で済みます。記録の実績データは請求ソフトへ連携でき、勤怠はGPS付きで同じアプリに残ります。
よくある質問
参考資料(公式)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第19条・第39条
- 令和3年度介護報酬改定の主な事項について(厚生労働省)「署名・押印の見直し、電磁的記録による保存等」
- 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(厚生労働省・個人情報保護委員会)
- 介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会(社会保障審議会介護保険部会)資料
- 訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(平成16年8月27日 基発第0827001号)業務報告書等の作成時間